| 投稿者名: 竹村直美
令和4年1月21日付けの読売新聞に「スポ庁『健康作り』に力」「運動習慣 定着図る」の見出しがスポーツ欄に掲げられた。2021年に開催されたオリ・パラをきっかけに国民のスポーツへの関心を高め、運動習慣の定着を目指していたスポーツ庁だが、新型コロナの影響もありその目標の達成が大きく揺らいでいる。オリパラをはじめ多くのプロスポーツは有形無形のダメージを受け、国民はスポーツ習慣どころか通常の社会生活さえ大きな制約を強いられている。
2020東京オリンピック・パラリンピックはメダル数だけでなく、私たちに多くの感動を与えてくれた。しかし無観客開催ということもあってか、その熱狂は急速に冷めてしまったように感じる。実際、ボランティアで現地で参加したが何故か遠い昔の出来事のように感じてしまっているのは私だけだろうか?
オリンピック・パラリンピックのレガシーとは何なのだろうか?
スポーツ基本法というのをご存じだろうか?2011年に議員立法で成立された、スポーツに係る基本的な法律である。それに基づいて2012年第1期スポーツ基本計画というのがスタートされ、2013年に20年にオリパラ東京開催が決定し、2015年にはスポーツ庁が創設された。この流れで第2期スポーツ基本計画が平成29年から令和3年の5年計画としてうちだされ、令和3年12月20日には第3期スポーツ基本計画の中間報告がスポーツ庁から出された。文頭の読売新聞の記事はこの中間報告とオリンピックのレガシーについて書かれている。
スポーツ基本法には「スポーツを通じて、国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むことのできる社会の実現」とある。スポーツをすれば本当に健康で文化的な生活を営むことができるのだろうか?
この図からもわかるように、第2期スポーツ基本計画の要点は「スポーツが変える。未来を創る。」ことである。
何を変え何が変わるのだろうか?
①スポーツで人生が変わる!
②スポーツで社会を変える。
③スポーツで世界とつながる!
④スポーツで未来を創る!
とある。あまりにも壮大でピンとこない。
国民の多くがスポーツを生活の一部とすることで人生を楽しく健康で生き生きとしたものにできるという。確かに私のようにスポーツ好きのものにはスポーツが生活の一部(大部分?)になっているが、スポーツをする習慣のない人、する時間がない人、もっと言うとスポーツ嫌いな人には響かないのではないだろうか?確かに定期的にスポーツをすることが健康に良いことは周知の事実である。人々がスポーツに親しむことで健康を得ることができれば、本人はもとより家族も幸せだし、医療費の削減にもつながる。私たち歯科医師も口腔の観点から健康、スポーツを支えていきたいと考えている。
しかし今の日本では手軽にスポーツに親しむ土台が出来上がっていないように感じる。週1回以上スポーツをしている人の割合は42.5%と半分以下。特に女性や障害者のスポーツ機会は低くなっている。だがスポーツといっても幅が広い。集団競技や激しい動きのものだけがスポーツではない。近所でのウオーキングや室内で行う体操もスポーツの範疇に入っているので、コロナ禍で在宅勤務が増えたことを踏まえて近所の散策という程度の軽い気持ちでいれば、多くの人がスポーツに親しむことができるとも言える。
オリンピック・パラリンピックについて言えば、無観客開催となり経済・地域の活性化にはあまり貢献できなかったが、もし通常の開催であればその効果は多大なものになっていたと思われる。また今回の大会で大きく掲げられた「共生」「多様性」という観点からもパラリンピックを観戦して、障害のある方への対応や考え方が変わった方も多いのではないだろうか?バリアフリーなどインフラの整備が行われ、街が使いやすいものになったのならオリ・パラのおかげではないだろうか。一人一人の少しの考え方の変化で社会が変わっていき、スポーツがその一助になっているのであればうれしい限りである。
レガシーとは遺産である。派生的には「世代から世代に受け継ぐものごと」とある。東京2020オリンピック・パラリンピックのレガシーが建物や場所だけでなく、一人一人の気持ちの中で「受け継ぐものごと」として何かのこっていたならうれしいと思う。